研究室訪問

 今回の研究室訪問は,機械工学科の柴田論助教授にお話を伺いました.柴田先生は平成6年3月に東北大学大学院工学研究科博士課程を修了後,同年4月に愛媛大学工学部機械工学科に助手として着任され,平成10年4月に助教授に昇進されました.今回は柴田先生に,研究テーマ,趣味,そして大学生,高校生へのメッセージを語っていただきました.

それではまず,柴田先生の現在の研究テーマについて教えてください.

 研究テーマはいくつかあるのですが,それらは大きく分けて2つのカテゴリーに分類されます.1つは人間と共存する知能機械に関する基礎的研究です.もう一つは空気圧サーボ系の実用的高機能化についての研究です.今日はこのうち前者についてお話ししますね.

  私たちの国は,少子・高齢化,環境・エネルギー問題といった厳しい社会問題に直面するとともに,急速に発展する社会のグローバル化の中で,産業競争力を維持しつつ,活力にあふれた社会を実現することが望まれています.このためには,国民が安心して生活を送られるように環境を整備し,ゆとりや豊かさなどの質を向上することが大切です.これらの課題を解決し,豊かな社会を実現するための一助として,ロボットに代表される知能機械が何らかの形で社会に役立つことが期待されています.

  最近,愛らしいペットロボットや便利な掃除ロボットが商品化され,人間型二足歩行ロボットが歩いている映像がテレビ等で放映されています.これらは,ロボットがより身近な存在として人々と共存する社会の実現を予感させてくれます.

  一方,私たちの国は,出生率の低下による少子化と平均寿命の伸びに伴う高齢化が進んでいます.少子・高齢化がすすんだ社会では,生産人口が減少し,産業全体の衰退が危惧されるとともに,高齢者福祉に関係した従事者の需要増に対応出来ないという心配があります.将来,企業にとっての労働力の確保が極めて重要な課題となり,そのためには,高齢者の社会進出を支援することも考えなければなりません.また,身体の機能の衰えが顕著な高齢者を有する家庭では,身の回りの世話をする介護力の援助が必要となります.このような観点からも,ロボットに代表される知能機械が,人間に対する介護支援,あるいはそれに準ずる働きを行うことが期待されています.

  このように将来期待されている,人間と共存して人間を支援する知能機械が,より人間にとって安心出来て心理的に好ましい振る舞いを示すためにはどのようなことが重要であるかに注目し,研究を行っています.

人間にとって安心出来て,心理的に好ましい振る舞いを知能機械が行うために重要なこととはどんなことですか?

 いくつかの重要な要素があると思います.知能機械の構造(自由度)もそのひとつですね.例えば,人間と同じ部屋にいて,人間のために身の回りのものを運ぶ,手渡すというようなタスクを行うパーソナルな知能機械を考えた場合,人間にとってより親しみやすいものであるためには,生成する運動を予測しやすいものとするためにできるだけその構造を単純化し,日常生活で用いられる道具や機器の延長として位置づけられるものからスタートすることが重要であると考えています.つまり,今まで慣れ親しんだ道具や機器に少しずつ知能や機能を付け加えていけば,知らないうちに上手に使いこなしている自分に気づくことでしょう.いわゆる「ロボット」という存在に身構えたり気を使ったり,使いこなすのに多大な労力を必要とするようでは,ロボットに興味のある人とそうでない人,若年者と高齢者の格差が大きくなり,理想的な共存関係とは言えません.あくまで道具の延長上にある「知能機械」から共存関係は始まるべきでは・・・と思っています.   もうひとつ,私が注目しているのは,知能機械が生成する運動軌道です.従来,ロボットに代表される知能機械は,主に工場内の組み立て作業のように人間と隔離された空間で活躍してきました.そのような知能機械は,正確に,速く,高効率で動作を行うことが重要とされてきました.しかし,今後期待されている人間と共存する知能機械の場合,そのように険しい表情で運動するのではなく,人間に気を使い,人間のペースに合わせ,やさしい表情で運動すべきだと考えています.

ひとに気を使い,人のペースに合わせ,優しい表情をする・・・.何だかすごく親近感を感じます.でも,それを実際に知能機械に行わせるにはどうすればいいのですか?

 その一つの答えとして,私は,人間が生成する滑らかで優れた運動特性に注目しました.人の生成する優れた運動特性は,アテネオリンピックのテレビ放送で,優れたアスリートの滑らかでダイナミックな演技を見て感動したように,見ている人の心をさわやかで清々しい気持ちにしてくれます.また,人間の生成する運動特性には,独特の滑らかさがあり,そして,滑らかさを乱す悪い要素をうち消す能力が備わっているのです.このような人間の生成する優れた運動特性を知能機械に応用するために,まず人間の滑らかで優れた運動を詳しく分析し,人の心に影響を与える因子を抽出して,知能機械の構造,形態に合わせてそれらを適用しようという研究を行っています.

研究室にはどのような知能機械がありますか?

 いくつかあるのですが・・・.その中でも,人間の腕と同じ構造,ほぼ同じ寸法のアームロボットがあります.これを使って,ロボットから人間へのやさしい手渡し動作を行っています.ロボットは人間の動きに協調しながら,独特の滑らかさ,柔らかさを付加した運動を生成するのですよ.

  次に,移動ロボットがあります.可搬重量は100kgで設計しました.人間を乗せて走ることが可能です.この移動ロボットは,オフィスや家庭でのサービスロボットを想定した場合に,人とのスムーズな行き違い運動を行うことが出来ます.人間と衝突せずに行き違うことはもちろんですが,出来るだけ人間を迷わせたり,行き違いのために人間が急激な可減速を行わないような状況に陥らせたりしないように工夫しています.また,移動ロボットの生成する軌道は,人間が客観的にそれを見て安心感,親近感を抱くようなものになるよう計画,実行されます.そして,この移動ロボットは,電動車椅子についての研究のプラットフォームとしても利用しています.

  その他,単純な構造の2自由度知能機械が2つ,1自由度知能機械が1つ,やや小型の多関節ロボットアームが2つあります.これらはいずれも,人間と共存するロボットと人間との能動的なインターフェースに関する基礎的研究を行っています.たとえば,ジェスチャや音声で指示をして,知能機械との協調運動をより望ましいものへと調整しようとする研究,指先の指示運動に追従して部屋の中を動き回り,身の回りの世話をするような知能機械についての研究,首の向きを変えるだけでそれに合わせて動いてくれる知能機械に関する研究,人間との衝突を回避するときに,人間心理に好ましいように形を変形させる多関節ロボットに関する研究などです.

もし良かったら,第2のカテゴリーの,空気圧サーボ系の実用的高機能化についての研究を簡単に教えていただけますか?

 最近,空気をエネルギー源として動力を発生する,いわゆる空気圧アクチュータは,食品関係をはじめとして数多くの分野で幅広く利用され,現代産業界にとっては,必要不可欠な存在となっています.これはエネルギ源である空気の有する経済性,安全性,無公害性,ならびに,空気圧アクチュエータのもつ小型軽量でメンテナンスが比較的容易という特徴によるものです.
  しかし,空気圧システムは空気の圧縮性による低剛性や圧力の応答遅れ,ピストン,シリンダ間の摺動摩擦,空気の温度変化によるプラントの特性変動などの,思い通りに動く性能(制御性能)に悪影響を与える要素が本質的に存在するシステムなのです.これらの悪影響を与える要素が無視できる程度に小さい場合には,従来の簡単な方法で思い通りに動かすことが出来ます.しかしながら,空気圧システムでは,動作条件によってそれらの要素の存在が無視できない場合が多くあり,そのような場合にはその要素の影響を除去するための新たな方法を開発する必要があります.
  また,空気圧システムは本質的に柔らかさを有するシステムであり,人間と共存する知能機械としての応用にも目を向けています.

それでは,次に研究以外のことについてお話を伺いたいと思います.先生は何か趣味のようなものはありますか?

 私は,基本的に体を動かすのが大好きなのですが,最近は特にボウリングに夢中です.ボウリングは適度な有酸素運動で,健康にすごく良いそうです.JBC愛媛県連というアマチュア団体に所属し,汗を流しています.ここ2年,県連から国民体育大会参加のチャンスをいただきました.四国からは4県のうち2県しか本大会に出られないのですが,どうにか2年連続で四国ブロック(その2県を決める大会)を突破し,本大会に出場することが出来ました.私よりもはるかに上の実力者の方々と一緒に参加した本大会は,とても緊張しましたが得るものも大きかったです.そして去年,初めてパーフェクトゲーム(300点)を達成しました.嬉しかったです!

大学生,高校生へのメッセージをお願いします.

 いままでの研究室訪問の先生方がとても素晴らしいことをたくさんメッセージとして残されておられるので,私が言うべきことは余りないかなとも思うのですが・・・.そうですね.月並みですが,今という時間,そして自分らしさを大切にして,思いっきり青春をエンジョイしてください!