セラミックス球-板の衝撃破壊特性
Damage behaviors of a ceramic plate due to collision of a flying sphere
The impact damage in a silicon carbide plate caused by a collision of a silicon nitride sphere was characterized through microscopic observations as well as an analysis based on the Hertz’s contact theory. The experimental results in the impact tests were compared with those in the quasi-static indentation tests. It was proved that the minimum and maximum radii of multiple ring cracks increased with increasing collision speed or maximum collision load, and that the corn crack growth also had the collision speed-dependency. The maximum radius of the ring crack agreed well with a theoretical one which was derived based on the Hertz’s theory while the minimum radius of the ring crack becomes smaller than theoretical one at high collision speeds where the sphere was broken into pieces due to impact load. It was presumed from the analysis that a ring crack with a minimum radius was generated when the collision load reached 40 % of the maximum one.
セラミックスやガラスに代表される脆性材料は耐熱性,耐摩耗性等の優れた性質を有している.その反面,脆性材料にはいくつかの問題点が指摘されている.特に本質的な問題である靭性の低さは,実用上,重大な欠点である.例えば,動翼・静翼にセラミックを用いたガスタービンにおいて,高速燃焼ガス中の微粒子が動翼・静翼に高速で衝突すると,金属のように塑性変形によって応力緩和できず,微小領域で損傷が生じる可能性がある.さらに,脆性材料は切欠き感受性が極めて高いため,微小域での損傷が致命的な破壊を引き起こす危険性がある.したがって微粒子衝突に対する脆性材料表面層の健全性・安全性の定量的な評価が必要とされている.
本研究目的
本研究では,セラミックスと飛翔球の衝突接触による強度・信頼性評価法の確立を目的とし,第一段階としてセラミックスの球と板の静的球押込み試験および飛翔球衝突試験を行った.接触時に発生するリングクラックやコーンクラックの損傷観察およびリングクラック半径と接触速度の関係を検討した.
供試材と実験方法
供試材は,板試験片として常圧焼結炭化ケイ素(SiC)を5×10×20 mmに加工し,10×20 mmの表面はダイヤモンドスラリーで表面粗さRmax<1 μmに仕上げた.小球は,飛翔球衝突試験および静的球押込み試験ともに直径1.58 mm(5/8 in.)の窒化ケイ素(Si3N4)を用いた.
飛翔球衝突試験は,Fig.1に示す飛翔球衝突試験機(丸和電機叶サ)を用いて行う.この装置は電源制御装置,データロガーおよびチャンバで構成され,チャンバ内で小球を発射し衝突試験が行われる.球は電熱型銃を用いて発射される.これは数ミリのアルミ箔に2〜10kVの高電圧をかけ,箔の溶融蒸発で発生する高温金属プラズマ圧によって飛翔球を発射する原理である.球はサボに固定されており,高圧で加速され銃口にてサボが止められ,球のみが発射される.飛翔球は直径3mmまで使用可能であるが,今回は直径1.58mmの球を使用した.発射速度Vは600〜1600 m/s程度であるが,本実験ではV=40〜600 m/sで試験するため,銃口内に銅棒を挿入することによって,その長さで速度を調節した.球の速度は,球が速度検出管の両端(間隔250 mm)を貫通したときの時間の差から算出した.
実験結果および考察
損傷観察 衝突試験から得られた試験片表面損傷の様子をFig.2に示す.同心円状のき裂がリングクラックであり,Fig.2(b)のリングクラック周辺部に見られる白い部分は衝突時に圧砕した飛翔球による損傷である.衝突速度の上昇,すなわち最大衝突荷重の増大に伴いリングクラックの数が増加していることがわかる.Fig.3に接触直下の断面から観察したき裂の状況を示す.リングクラックから試験片深さ方向に向けてコーンクラックが進展している様子が確認できる.コーンクラックの長さは衝突速度の上昇とともに長くなり,試験表面とのなす角度は増大する傾向が見られた.また,接触点直下のメジアンクラックは衝突速度が約400
m/s以上で確認できた.
リングクラック半径と衝突速度 衝突試験において試験片表面には多重リングクラックが発生する.そこで,リングクラックの最小半径rminと最大半径rmaxに対する衝突速度および推算した最大衝突荷重の関係をFig.4に示す.衝突速度の増大とともに両半径は増大する傾向を示す.また,400 m/s付近において最小リングクラック半径はばらついている.Fig.4には比較のために押込み試験におけるリングクラック半径もプロットした.押込み試験においても多重リングクラックが発生するが,およそ1.5 kN付近でセラミックス球が圧砕した.しかしながら,衝突試験における最大リングクラック半径と押込み試験におけるそれは低荷重領域で一致している.そこで,Hertzの接触理論に基づいた理論接触半径rthを用いて,荷重Pにおける理論接触半径の関係を理論線として図中に示す.最大リングクラック半径は全荷重領域において理論線と一致することが明らかとなった.したがって,3節で述べた速度と荷重の関係はほぼ妥当であると考えられる.しかしながら,衝突初期における最小リングクラック半径は理論線より20%程小さい.また,リングクラック発生の下限界荷重も高荷重側である.これは最小リングクラック半径を最大荷重で整理したためである.そこで,衝突試験の最小リングクラック半径に対する理論荷重を導いて整理し直すと,Fig.5に示すように低荷重領域(約2 kNまたは200m/s以下)においてリングクラック半径は理論線上にほぼ一致した.したがって,この速度範囲では静的接触として考えることができる.一方,高荷重領域(約2 kNまたは200m/s以上)において荷重(速度)が増大すると半径はばらつく傾向を示す.この領域ではメジアンクラックの発生が認められることや押込み試験では1.5 kN以上でセラミックス球の圧砕が確認されていることから,衝突試験においてもほぼ同荷重において球の圧砕が生じリングクラック半径の減少またはばらつきに関与したものと推察される.なお,破壊じん性値のひずみ速度依存性の影響については,現段階では動的破壊じん性のデータが不足しているため考察していない.今後,数値解析手法を利用し,動的接触破壊のクライテリオンを見出すことによって実験事実を力学的観点から正確に検証することが必要である.